ホッテンネ国[ホータン]に名高い優れた哲学者がいました。機械仕掛けがとても好きで、金細工にかけては当時の誰よりも秀でていました。たくさんの美術品を作っていましたが、ある日、銀で出来たからくり像を作り上げました。その前で嘘が言われると、像はすぐに笑い出すように出来ていました。土地の君主がこの像のことを聞き、イスラム教徒だったその君主は見たがりました。像の精巧な仕掛けにたいへん驚いて、大量の金銭を差し出して、それを手に入れたいと哲学者に尋ねさせました。しかし金銭を軽んじる哲学者は、領主からの感謝を重んじて像を献上することにしました。
人形のために、領主は宮殿の傍に大きな美しい後宮を作りました。四角形の建物の四隅に四つの豪奢な屋敷があり、それぞれ川、厩、厨房、そして領主の葡萄酒蔵に面していました。後宮のなかの高い土台の上にその像を置かせて、用事がないときはここに遊びに来るのが習慣となりました。家臣たちといろいろ話をして、会話のなかで嘘をつかせて、像が笑う様子を面白がっていました。この君主は学問に秀でた人物でたいへん研究を重ねました。女性は非常に邪悪で信用ならない動物であるとあちこちの著者が書いているのを読んで、妻を娶らないと若い頃から決心していました。君主に従う家臣たちはとても悩みました。かれは優れた領主としてだれからも好かれていて、国を引き継ぐ跡継ぎをみなが待ち望んでいたからです。
ある日、彼の下に四人の重臣が進み出て、あれこれ道理を説きました。女性の多くには不実なところがたくさんあり非常に不完全な動物ではあるといっても、賢明かつ善良な女性が見つからないわけではないと無理やり言い聞かせ、嫁をもらうことを思いとどまるべきではないと結びました。嫁をもらうことは、自分の跡継ぎを残すため、彼のように大国の主である者にとって必要であると。そうした理由のほかにも、あれこれ付け加えて説得しました。女性がどんなに信頼できない動物だと君主が考えるにしても、八人か十人の中には善い女性が見つかるかもしれないし、その女性を妻とすればこの国の跡継ぎを授かるだろうと言いました。君主の性格としては気乗りしませんでしたが彼らの言葉に耳を貸して、人民からしつこく言われなくてすむように助言を試すことにしました。
知り合いの四人の太守の娘である四人の乙女の美貌と優れた人格を伝え聞いていたので、四人の使者を送って彼女たちを迎え入れました。貴重な贈り物を贈られた四人の太守は、乙女たちを君主へ送りました。かれは喜んで恭しく彼女らを出迎えて、像が置かれている後宮の四隅に建ててあった四つの住まいを四人に割り当てました。時も遅くなってから、ひとりを自分の寝室に連れて行き、彼女の体に触れ、抱き寄せようとしました。あれこれ話をしながら、葉をむしった薔薇の籠に手を伸ばして花びらを彼女の乳房に投げようとしたとき、花びらのかけらが顔に落ちました。すると花びらが当たったことに娘は大変痛がって、気を失ったふりをしました。君主はとても心配して、召使を呼んで酢を運ばせて、それに薔薇水を混ぜたものを娘の鼻先に置いてこめかみを濡らしてやると、彼女は気を取り戻した様子でした。しばらく休んでからようやく立ち上がった彼女の手をとり、部屋の窓際へとそっと連れて行きました。そこから像を見上げるとそれが笑っていることに気がついて、すぐにごまかしつまり娘が花びらにあたって気を失うふりをしたのだと分かりました。それでも彼は知らぬふりをし、この出来事について会話しながら窓辺にもたれていると、急に彼女は手に顔をあてて覆い隠しました。女がこうしたのは、この像が男だと思ったふりをして自分の姿を見られたくない様子を領主に見せたかったからでした。しかしすでに最初の嘘に気がついていた彼は今度の嘘にも気がついて、像を見上げてみると、笑っているのが見えました。この邪悪な娘は嘘ばかりつくと確認しましたが、ごまかしに気がついたことを悟られないようにその晩は彼女と床を共にしました。そして翌朝早く起きると、娘をかわいがってから、厩に面したその住まいへと送りました。
そしてイスラム教徒の習慣に従って浴室で湯浴みをすると、別の娘を連れて来させました。嬉しそうな顔をして彼女と中庭で会うと、手をとって自分の部屋へ連れて行きました。たまたまアーミン(エゾイタチ)の服を着ていたので、寄り添って首に腕を回したときアーミンの毛が娘の乳房に触れました。彼女はそれにひどく不快を感じた様子をみせて、
「ああ」と言いました。「陛下、どうか少しお離れになってください。陛下の御着物の毛が肌をひどく擦って、とても痛いのでございます」その言葉から領主は娘の邪な嘘を見抜いて像を見上げると、笑っているのが見えたので、嘘だと確信しました。しかしそれを覆い隠し、彼は
「おまえは実に」と彼女に答えました。「繊細な体をしているのだね。この服の毛皮でそんなに痛がるのだから、体がそうならお前の顔はもっと敏感なのだろう」そんな風に内心つぶやきながら、いっしょに部屋にあった鏡に近づいて、顔を寄せ合って覗き込みました。二人が一緒に覗き込むとすぐに女は顔を両手で覆いました。なぜそんなことをするのか、と王が尋ねると
「それは」彼女は言いました。「わたしが陛下以外の男から見られるのは許されないからです」これも嘘だと王はもう気がついていたので、また像を振り向くと笑っていました。それでもすべてを知らぬふりをして、その夜は女と床を共にしました。翌朝早く起きて、厨房に面したその住まいに女を帰しました。そして彼は風呂にしばらく入った後で風呂を出ると、第三の娘を呼ばせるように命じました。
彼女が彼の前にやってくると、顔をほころばせて出迎えて一緒に王宮の庭へ入り、緑鮮やかな草原に腰を下して、あれこれ話をしました。そこには美しい湖があり、そこに大小の魚が見える様子は見ていてとても楽しいものでした。その湖にふたりが近づくと、すぐに娘は顔をヴェールで覆いました。君主がそのわけを尋ねると彼女は答えました。
「それはこの湖に雄の魚がいるからでございます。わたしは女ですから、男性から見られるのはふさわしいことではありません」そうした言葉から君主はこれが先の二人の女に勝るわけではないと思い、確かめようと像を振り返ると、笑っていました。その後しばらくしてこんなことがありました。湖に綺麗な小船があり、帆をいっぱいに広げて、鑿で掘り出された水夫の人形がいっぱい乗っている様子は、まるで沖合いを進む大船のように見えました。湖の飾りとして浮かべれたこの船が、風に揺られて沈んでしまいました。これを見た娘は気絶したふりをして地面に崩れ落ちました。意識を取り戻したとき、苦しみの理由を王から尋ねられて、
「それは陛下」と言いました。「水夫を乗せたあの船が沈むのを見たのが、とても辛かったからでございます」船に乗っていた木の人形が沈むのを見て気絶するふりをした娘の嘘と悪意を見抜いて彼が像を見上げると、笑っていたので、自分の思い違いではないと確信しました。しかしこのことを娘にはまったく見せずに、抱き寄せてその晩床を共にしたいと言いました。翌朝早く、川に面したその住まいに女を帰すと、風呂から上がった後で、第四の娘を連れて来させました。
四番目の娘は彼の前に連れてこられても敬意を表して近づこうとしなかったので、彼は手をとって撫でさすりました。しかし娘がとても貞淑で礼儀正しい様子だったので、これもまた他の娘と同様に邪悪なのかと疑って、像に目をやりましたが、像は笑っていませんでした。娘は本当に善良で貞淑だったからです。そしてその晩彼女とも床を共にして、葡萄酒倉庫に面した住まいに帰しました。しかし彼女が自分に対して示した慎ましく敬意に満ちた態度から、王侯の娘ではなく貧しく卑しい男の娘であると判断して、その後はこの娘と床を共にすることなく、他の三人を相手にしました。
ある晩、薔薇の花弁に当たって気絶するふりをした娘の部屋に君主は行き、夕食後、横になってあれこれ会話をしているうちに眠り込みました。しばらくして目を覚ますと、傍にいるはずの娘が床にいないことに気がつきました。びっくりしてすぐに起き上がり、明かりを灯して部屋をくまなく探しました。すべての扉は閉まっていましたが、厩に続く扉だけが開いていました。彼はひどく腹を立てて刀を抜き放ち、開いていた扉を抜けて厩へ行くと、娘が大声で叫ぶのが聞こえました。厩舎番が、長いこと待たされたからと、女をひどく殴ったり蹴ったりしていました。娘は涙をぼろぼろ流しながら、今晩は王と床を共にしたために早く来られなかったのだと言い訳をして、王が寝付いてすぐにここへやってきたと言って、殴らないで欲しいと強く頼みました。
これを見ていた王は怒りに満ちて、二人を殺すのをどうにか思いとどまりました。自分の名誉にはふさわしくないと考えて、邪悪な女への復讐は別の機会にとっておくことにしました。君主は胸のうちでつぶやきました。「邪悪な女め、わたしの前では薔薇の花びら一枚がぶつかった程度で気絶するほど敏感な顔をしていたお前は、どうしてそんなに激しく殴られて平気なのだ?」そして像の偉大な仕掛けは真実であると悟りました。その後、その場から立ち去って寝台へ戻りましたが、他の女の悪事を見届けるためにだれにもこのことは喋りませんでした。
あくる日いつもの時間に、第二の娘、厨房に面した部屋の娘を塔へ伴って遅くまで彼女とあれこれ会話をしていました。夕食の準備が整い、ふたりだけで食卓に着きました。楽しい会話をしながらしばらく時を過ごし、食卓が片付けられた後、王は眠ったふりをしました。そのまま二時間ほど過ぎたので、彼が本当に寝入ったのだと彼女は考えました。彼女はそっと起き上がって部屋の扉を開けて、厨房へ行きました。しかし寝ていなかった君主は、すべて気がついていてそっと彼女の後をつけていくと、すぐに厨房に入った娘を料理人が固く抱きしめているところを見ました。料理人は娘の手をとって、トゲだらけの薪の山の上に横たわらせて、甘美な愛の楽しみに耽りました。王はとても驚きました。アーミンの服が乳房に触れただけでほとんど気絶するほどの苦しみを覚えた女が、トゲだらけの薪にまったく傷つく様子を見せなかったからでした。「この女は」彼は言いました。「他の女と同様に邪悪である。彼女に対する像の判断も正しかったことが今分かった」それでも静かに立ち去ると、寝台に戻って横になりました。第三の体験をするために、翌晩となるのを首を長くして待ちました。
そして朝早く起きると、晩?の時間になるまで、悪辣な女たちをどうやって罰しようかとばかり考えていました。川に面した部屋に住む第三の娘を呼び出しました。他の二人に見たこと以上のものを彼女から期待していなかったのですが、彼女に言い寄って夜になるまで彼女と楽しいやり取りをして過ごし、食卓を用意させて夕食をとりました。壮麗な音楽を聴いてから寝所へ入りました。君主は横になると、この女の邪悪さも確かめようと思ったので、しばらくしてから疲れているのでと娘に言って眠るふりをしました。それを女は信じて、君主が本当に眠ったと思い、他の女と同じようにこっそり彼の横から起き上がると、静かに扉を開けて部屋から抜け出し、川に向かう階段へ行きました。そこに着くと彼女は服を脱いで頭の上に乗せ、その場にあった空っぽの素焼きの壷を手にして、おぼれないようにそれを脇に抱えながら対岸へ渡りました。ひとりの農民が彼女を出迎えて強く抱きしめると、二人は土手の上に横になって長いこと愛の愉しみに耽りました。
この行動を君主はすべて見ていました。寝台から起きて川まで後をつけたからです。そして、この女が他の二人におとらず邪悪であると知りました。風で湖に沈んだ小船に気絶するふりをし、雄の魚から見られないように顔を隠した女は、危険を冒して川を渡ったことで、実は嘘と欺瞞に満ちていることを、像は明らかにしたのでした。それでも王は誰にも話さず自室に戻りました。そして三人にしたように四人目の女にも同じ試練を受けさせようと、翌日を待ちました。
早朝に起きて、晩?の時間まで自分の仕事をこなしてから、娘に自分のところへ来るように命令を出しました。彼女と庭で遅くまであれこれ話をして過ごし、盛大に準備させた食卓に腰を下しました。そして食事が済むと、上品な歌と音楽に伴われて、寝所へ行きました。二人はいろんな話題について語った後、君主が眠ったふりをすると、女はこっそりと寝台から起き上がって服を着て小さな本を手にし、そばの小部屋に行って祈祷を始めました。しかしすべてを見ていた君主はこの女も誤魔化すだろうと考えて、音を立てずに自分も服を着て後を追いました。彼女が祈りを捧げているのを見ましたが、それでもまだ善良なのか確信がもてませんでした。しかししばらくそこにいて、祈りを終えた彼女が小部屋を出ようと戸口に近づいたので、見られないよう君主はすぐベッドへ戻りました。戻った彼女は服を脱いで、そっと彼の脇に横になりました。それにも関わらず君主はまだこの女性が善良だと信じることができず、敬虔なふりをしてごまかそうとしているのだと考えて、三日連続して床を共にすることにしてその間ずっと傍にいました。この娘がずっと祈りを続けていたことを見届けたので、本当に善良で徳を備えていることに気がついて彼女を妻とする決心をし、他の三人が彼に行った不正を厳しく罰することにしました。
王が飼っていた多くの凶暴な動物(彼は、何頭も飼っていた動物を一緒に戦わせて見世物にしていました)のなかに、恐ろしく凶暴なラバがいました。ある晩遅く、王は召使を呼んで一緒に厩へ行くと、悪い女が通るはずの場所にラバを繋がせました。それが実行されると、厩番がラバを移動させないように、その晩は厩で厩番といっしょに過ごすように召使に命じました。自分の部屋へ帰ると、厩に面した部屋に住んでいる女を自分のところへ来させました。
命令を受けた女はすぐに君主の下へ参りました。王は嬉しそうに出迎えると、豪華な食事を用意させ、一緒に食卓に着きました。音楽と歌とともに長い時間を過ごした後で食卓が片付けられて、時刻も遅くなったので、君主は彼女の手をとって床へ伴いました。横になると彼はすぐに疲れた様子で、眠り込んだふりをしました。それを見た卑しい女は、心では厩番を思っていたので、自分の服を手にすると静かにベッドから起き上がり、前回と同じように厩へ続く階段へ向かいました。階段を下りて、前回のように厩番が自分を待っていると思って、凶暴なラバの隣に横になりました。ラバはそれに気がついて、蹄と歯で激しく女に襲いかかり、あっという間に恐ろしい残忍な死を女に与えました。厩番といっしょにいた召使たちから翌日この事故が報告されると、君主はとても悲しむふりをしながらも、実は言えないほど嬉しく思いました。
他の二人の女性も殺そうと決心していたので、厨房に面した部屋の女を呼んで、ラバで殺した先の女と同様に、夕食をとり楽しく会話をして夜遅く床へ着きました。しかしその前に忠実な召使に命令して、厨房へ続く階段の上の四段を取り外させておきました。召使がそれが実行した後で、君主は娘と長い間愛の会話を交わしてから寝入ったふりをしました。君主ではなく料理人をとても愛していた悪い女は、そっと君主の横から起き上がって服を小脇に抱え、厨房へ向かいました。階段まで来て下りようと足を降ろしましたが、段がなかったのでまっさかさまに墜落しました。高いところから落下したので全身の骨が砕け、あっという間にこの世を去りました。これに君主は喜び、とても嬉しく思いましたが、その知らせを持ってきた者に対してはとても残念な様子をして見せたのですが。
第三の女を罰することが残っていたので、翌日の遅い時間に彼女を呼びにやらせ、彼の前にやってきた女を大いに愛し、ほかの二人にしたように彼女と夕食と会話で寝る時間まで過ごすと横になりました。しかし昼間のうちに、自分の忠実な大臣に命じて、彼女が川を安全に渡るために抱えていた素焼きの壷を盗ませ、代わりにそれに似た生焼けの壷を置かせました。大臣は忠実に言いつけを実行しました。王は悪い女と共に横になると、愛の会話を長々と話し合ってから、他の時と同様に寝入ったふりをしました。前回と同様に、これに気がついた彼女は静かに起き上がって服を手にすると部屋から出て行き、川に向かいました。服を頭の上に乗せ、生焼けの壷をいつもの壷だと思い込んで両手で抱えて、川に入りました。しかし生焼けだった壷は沈んでしまい、たちまち彼女はおぼれてしまいました。朝になってこのことを聞いた王は、不実で悪い三人の女性に厳しい処罰を与えたことですっかり嬉しくなりました。
そして祈祷をしていた第四の娘に自分の思いをすべて向けようと考え、善良さと稀な徳性を備えた彼女を妻とすることにし、荘厳に結婚式を執り行いました。まもなく彼女との間に三人の息子が誕生し、跡継ぎを待ち望んでいた家臣たちは安心しました。君主は妻と共に一日中徳行に励みながら何年も平和で幸せな生活を送りました。